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スーダンの水事情

地方と都市の水事情-漏水

水道施設の管理において、最も大切な要素の一つに配水量分析がある。配水量分析とは、どれだけの水を配水し、その内どれだけの水が実際に使用されたかを把握するための分析方法である。配水量分析によって、漏水等により失われた水の量を把握することができるため、日本をはじめとする先進諸国では、さまざまな地点で流量を測定し配水量分析を適切に行なっているが、途上国の多くではこの分析が行なわれておらず、漏水率等を正確に把握できていないのが現状である。

3-4-1. 配水量分析

スーダンでは、ハルツーム州をはじめ、ほとんどの州で料金徴収に定額制を採用している。これは、各家屋、建物の規模に応じ、配水管から取り出す給水引込管のサイズを定め、そのサイズに応じて水道料金を決定するシステムである。このシステムでは水を大量に使用しても水道メータが取り付けられていないために水道料金が変わらない。そのため、水道施設を管理している州水公社においても、実際の水の使用量は把握できていない。各州の浄水場の中には、スーダン独立以前に建設された浄水場を改修し、現在も使用しているものがある。こういった古い浄水場には流量計が設置されておらず、どれだけの量を送水しているかさえ正確に把握することができていない。一方、比較的新しい浄水場については流量計が取り付けられているものがあり、そこでは総送水量を把握することができるが、実際の家屋、建物で使用されている水量が不明であるため、管路の途中で漏水等により水の損失が発生しても、それを把握することはできない。

写真1. センナール州ワダニヤル浄水場送水流量計(2012年建設)

写真2. 白ナイル州コスティ浄水場送水ポンプ(流量計なし)

しかしながら、このような全体的な流れとは別の例外もある。スーダン南東部にあるゲダレフ州では、各家屋、建物に水道メータが取り付けられており、水公社により給水量を把握することが可能である。また、スーダン東部のカッサラ州では、日本人専門家の協力により、一部地域に水道メータが取り付けられ、実際に家庭で使用されている水量を把握しようとする取り組みが行われている。カッサラ州での現状については、「3-4-6 カッサラ州での漏水の現状と取り組み」で詳しく説明する。

3-4-2. 漏水の原因

スーダンでは配管材として、硬質塩化ビニル管、高密度ポリエチレン管、鋼管、石綿管等が主に使用されている。日本でもかつては、アスベスト管が使用されていたが、外部からの衝撃に対する脆弱性等の問題から、現在はほとんどの地域で、他管種に交換されている。スーダンでも、水道関係者の多くはアスベスト管の問題点を把握しているが、ほとんどの州で予算不足を理由に他管種への交換は遅々として進んでいない。アスベスト管の残存使用は、スーダンにおける漏水の主な原因の一つと言える。また、スーダンでは管の土被り(設置深度)が厳格に管理されていない。そのため、一部の地域では、硬質塩化ビニル管や高密度ポリエチレン管のような樹脂製の管が、炎天下にさらされる状況にあり、漏水の原因となっている。
漏水がわずかでも発生すると、近隣にある樹木が水を求めてその管に向けて根を伸ばす。そして漏水箇所や接合が十分でない受け口等から根をパイプ内に侵入させる。これは、土中にある程度の水分が常に存在する日本のような状況下ではあまり見られないが、スーダンのような沙漠地帯では、植物の生存本能がこのような現象を顕著に引き起こす。植物根の侵入により、漏水規模がより大きくなるとともに、管内の水流が阻害され、給水エリアに水が届かないという現象がスーダン各地で発生している。

3-4-3. 直圧配水

スーダンの多くの州では、浄水場の浄水能力が需要に追い付いていないため、高架水槽等を設けて重力配水することを避け、加圧ポンプによる直圧配水を行なっている。この場合需要に応じてポンプの吐出量を調整する必要が生じるが、この調整を、州水公社職員が感覚的に行なっているため、需要量の急激な低下時には調整が追い付かず、配管内の水圧が急上昇し、配管漏水を引き起こしている。  この状況を改善するためには、浄水場の能力改善と十分な容量をもった高架水槽等の建設が必要となるが、ほとんどの場合、予算不足を理由に対策が立てられていない。また、州水公社職員がこの状況に対して深刻な危機意識をもっていないことも大きな問題となっている。

写真3. 白ナイル州ゲジラアバ浄水場。加圧ポンプから直圧配水されている

写真4. 白ナイル州コスティ浄水場。使用されていない高架水槽

3-4-4. 漏水への対応

写真5. 地上漏水の様子

スーダンでは一部の地域を除き、路面の表層が砂あるいは砂質土で覆われているため、管路から漏水が発生すると、多くの場合早期に水が地表に現れ、大きな水たまりをつくる。これを地上漏水と言う。スーダンでは州水公社の雇用する作業員がこの地上漏水を確認してはじめて対応・修繕が行われる。そのため、雨季には漏水を発見することが難しくなる。漏水に対しては、主として作業員が対応しているが、日本のように適切な資材を使用して補修をする方法ではなく、多くの場合は、ゴムチューブ等により漏水個所を抑える一時的対応を行なっている。そのため、漏水はほぼ毎日複数の個所で繰り返し発生しており、ロカリティによっては100名近い漏水対応作業員を雇用しているところもある。また、バルブの設置数が極端に少ないため、漏水修繕のための区間断水をすることが難しく、大規模な漏水の場合には広いエリアで長時間断水を、小規模な漏水の場合には断水せず水圧のかかった状況の中で修繕作業を行なう。漏水への根本的な対応は計画的な管路更新となるが、予算不足等の理由により多くの地域で実行されておらず、毎日漏水対応に追われているのが実情である。

3-4-5. 漏水対策への取り組み

これまで述べたようにスーダンでの漏水対策は、場当たり的で問題を多く抱えている。このような問題に対する州水公社職員の意識改善と技術向上のために、ハルツームにある飲料水・衛生局研修センター(DWST)では、州水公社のマネージャクラスを対象に管網管理研修を実施し、その中で漏水管理に関する講義・実習に多くの時間を割いている。

写真6. 漏水検知実習(DWST)

写真7. 漏水修繕実習(DWST)

3-4-6. カッサラ州での漏水の現状と取り組み

(1) 漏水の現状

カッサラ州における漏水の現状と取り組みについては、州都である人口31.4万人のカッサラ市を事例に述べる。カッサラ市の水源はガシ川流域にある約80ヶ所の井戸に依存している。井戸水を導水管で集めて、浄水場から加圧ポンプによる直圧方式で配水が行われている。1日2.3万m³が配水されている。現状の漏水率は35%と推定され、大切な地下水資源が浪費されている。カッサラ市はガシ川を中心に東岸地区(右岸)、西岸地区(左岸)に分けられ、それぞれの地区に州水公社の事務所がある。漏水の現状は、東・西事務所に寄せられる苦情件数から知ることができる。苦情の内容は、漏水、減水、断水の3つに区分され州水公社の苦情課において苦情記録簿によって管理されている。東事務所における過去14ヶ月間の苦情件数の推移は、図1に示すとおりである。

図1.苦情件数の推移(東事務所)(出典:カッサラ水公社,2013年5月)

年間を通した漏水の苦情は、1月が476件とピークとなっており、8月も389件と多い。秋と冬の時期に多く発生していることがわかる。これは夏に比べ気温が下がり水の使用量が減り、給水栓を開ける頻度が少なくなる結果、配管網の内圧が上がり古い石綿管(アスベスト管)のひび割れ箇所や、継手箇所から漏水が多く発生することに起因する。カッサラ市の管種別延長は表1に示すとおり、アスベスト管は配管網全体の46%を占め、総延長は140 kmにおよぶ。漏水の原因になっているアスベスト管をPVC管へ更新するのが緊急の課題となっている。

表1. カッサラ市内の管種別延長
管種東岸地区西岸地区 全体
合計149 km100%157 km100%306 km100%
アベスト管 84 km 56% 56 km 36% 140 km 46%
PVC管 64 km 43% 98 km 63% 162 km 53%
鋼管 1 km 0.7 3 km 1% 4 km 1%

一方、断水の苦情は、漏水の時期と正反対の傾向がみられる。5月が376件とピークとなっており、10月も330件と多い。水道使用量が多くなる夏に多く発生していることがわかる。これは季節変動による地下水位の低下により井戸の揚水量が減ること、また水道使用量が多くなることで標高が高い特定地区への圧力の低下によって配水できなくなることが原因となっている。さらには、漏水によってダマスと呼ばれる街路樹の根茎が水を求めてわずかな漏水箇所から配管内部に侵入し、配管内でスポンジ状に成長するために、完全に遮断し減水や断水する現象が多く発生している。この樹木の根茎はPVC管にあっても継手のわずかな隙間から管内に侵入して中で成長する場合がある(写真11)。地中で起こるこの現象の把握は地表からは困難となっている。
断水箇所を探し出して根茎を取り除く作業は、試行錯誤の繰り返しで非常に非効率で多大な労力がかかっている。探す方法は、先ず配管の継手箇所を掘り出し、継手を外して配管の中に1インチ程度の小さいポリエチレン管を挿入して行き止まった箇所に根茎が疑われる。次にその止まった位置の近傍を掘り出し、継手を外して配管内部に詰まった根茎を引き抜き取り除く。長い根茎では4インチ管に侵入した根茎で3m以上の長さに育ったものもある(写真11)。漏水と植物の根茎が原因で徐々に配水が減水し、断水に至るため予測が難しくなっている。漏水の改善にはアスベスト管の更新のための資金面と機器材を含む技術面で多くの課題が見られる。

写真8. 街路樹ダマスの木

写真9. 継手に侵入した根茎の除去作業

写真10. 根茎の位置を探すために小さいポリエチレン管を挿入している

写真11. 4 インチのアスベスト管から取り出された根茎

(2) 漏水への取り組みと課題

漏水の現状を改善するためには、中長期的にはアスベスト管からPVC管への更新が必要である。この更新事業は州水公社により2004年より進められている。しかしながら、交換するためのPVC管の調達や工事に係る予算には限界があるため、2009年の州水公社の実績では、4インチ、8インチのアスベスト管の内4kmが敷設替えされたに過ぎない。このペースを前提とした場合、延長140 kmあるアスベスト管の更新には相当な年月が掛ることになる。したがって、漏水箇所の修繕が必要となっている。苦情記録簿を確認して個別に対処せざるを得ないのが現状である。修繕方法は、苦情課で受け付けた苦情記録簿を技師が確認し、翌朝の打ち合わせで作業員に場所が指示される。作業員は自転車にツルハシとスコップ、タイヤゴムチューブ、ぼろ布を積み現場に向かう(写真13)。

写真12. 苦情課に断水のクレームに来た女性と対応

写真13. 朝の作業打ち合わせ後、自転車部隊が出動する

現場の漏水個所はピンポイントであることが多いため、路上に噴出した箇所を人力で繰り返し掘りながら漏水個所を探す。漏水個所が発見されればタイヤゴムチューブを3cm幅に裂き帯状にして配管に巻き付けて止水する(写真14、写真15)。また、継手箇所が漏水している場合には、継手のボルトが錆で朽ちていることもあり、すき間に布をマイナスドライバーで突っ込み止水を行っている。いずれも一時しのぎの方法であることから、同じ場所で漏水が繰り返される。止水状態を確認するためには、すぐに埋戻しを行わず掘ったままの状態が続く場合もある。半年以上も放置され人や車の往来に危険な状態になっている現場も散見される。作業体制は、1日2回に分けて行い、朝7時から15時までの班と15時から夜22時までの班があり2交代制で行われている。作業員の数は東事務所で17名、西事務所で15名が毎日作業にあたっており多額の費用がかかっている。

漏水の苦情に対する修繕が終わると、苦情記録簿に漏水作業終了の記録がなされる。記録を見た限りでは、ほとんどが対処されていた。減水、断水に関しては、給水量や配管網に依存しており、対処が困難な場合が多く改善が進まない。

写真14. タイヤチューブをナイフで切って止水材にする

写真15. 漏水管に巻かれた止水用のチューブ

現在、カッサラ市を拠点にして、実施されているカッサラプロジェクトの給水分野では、日本人専門家による州水公社の各種能力向上を目指した活動が実施されている。このプロジェクトは、計画、給水、農業、保健、職業訓練の5分野から成るマルチクラスターのプロジェクトで、それぞれの分野での活動によるシナジー効果が期待されている。
例えば、GISを用いてカッサラ市内管網図を作成し、アスベスト管の更新計画や漏水個所の修繕計画に利用している。また、これまでバックホーローダ、トラッククレーン、発電機、エアコンプレッサーなどの機械類や、メンテナンスに必要な機器材を供与していた。その他、漏水探知機によるOJTや機材管理研修、施設維持管理研修、財務管理研修、PC研修、2次元物理探査研修、カイゼン活動等によって州水公社の技術力の向上を目指している。また、市内は各戸配水の方式になっているが、水道メータが無く水道料金は月払いの定額制となっており、節水の意識も低くなっている。そのため、東西の55ヶ所の顧客に試行的に水道メーターを取り付け、毎月のメーターデータからレストランや、病院、学校、一般家庭等の実際の使用量の把握に努めている。これらのデータに基づき、定額料金の見直しが日本人の専門家で行われている。顧客数が東西事務所で約3.5万戸もあり、一度にすべての顧客に水道メーターを取り付けるには、莫大な費用がかかるため、使用量の多い大口顧客を先ず対象にして水道メーターを設置し、部分的な従量制の導入も検討されている。

また、カッサラ市では日本の無償資金協力で、東地区における2ヶ所の浄水場、西地区では1ヶ所の浄水場の改修と新規井戸施設の建設、導水管・配水施設の建設が進んでいる。東地区では約8800m³、西地区では約1700m³の配水池が完成する。改修計画では給水原単位は90ℓ/人/日(2009年基準62ℓ/人/日)、漏水率は28%(2009年基準35%)となっている。(写真16、写真17)これらの施設の完成によって、漏水、減水、断水の低減、また水質の改善が期待されている。今後、州水公社では、都市給水の基幹であるこれらの施設の運転・維持管理を適切に行うことが課題である。州水公社のための技術協力プロジェクと無償資金協力は2014年まで続くことになっている。

写真16. 建設中の東地区マハタ浄水場

写真17. 建設中の西地区ガルブ浄水場

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