1. HOME
  2. ブログ
  3. スーダンの水事情
  4. 各州の水事情-カッサラ州

BLOG

ブログ

スーダンの水事情

各州の水事情-カッサラ州

カッサラ州はスーダン東部に位置しており、北部を紅海州、南部はゲダレフ州、東部はエリトリア、エチオピアとの国境に囲まれている(図1参照)。カッサラ州と隣接する紅海州、ゲダレフ州を合わせた3州は東部スーダンと呼ばれる。東部スーダンでは開発の地域格差に対する政府への不満や旱魃による飢餓や貧困が重なったことにより、現地部族が武装蜂起し、2005年以降、政府軍との間で紛争が激化した。この東部紛争は2006年10月にようやく終息したが、カッサラ州の主要な社会経済指標(水、保健、教育、貧困等)はスーダン全体と比較しても未だに劣悪な状況にある。

図1.カッサラ州概略図

カッサラ州の住民は多民族から構成され、エジプト東部砂漠の遊牧民を起源とするベジャ族、サウジアラビアでの覇権争いに敗れ、19世紀前半に東部スーダンへ移住してきたラシャイダ族、ナイジェリアを起源とするハウサ族などが主要民族である。さらに、エリトリアからの難民が州内に居留している。普段、これらの多民族が共存し合って生活しているが、牧畜、農業を主な生業とするベジャ族と、遊牧民であるラシャイダ族の間で、水場をめぐる争いが起きたこともある。

州の面積は約4.3万km²であり、これは九州の面積にほぼ匹敵する。2008年の人口統計によれば、州の人口は約180万人であり、このうち35%の63万人が都市部に住んでいる。州には①Hamshkoreib、②Telkuk、③North Delta、④Rural Kassala、⑤West Kassala、⑥Kassala、⑦Rural Aroma、⑧NewHalfa、⑨Girba、⑩River Atbara、⑪Wad El Helewの11のロカリティーがある(図1参照)。

4-3-1. 地形

エリトリアと接する国境付近一帯はエチオピア楯状地の基盤岩分布地域の西縁であり、1000m前後の岩山が点在する。カッサラ州の中心部カッサラ市にも標高800~1000mのTaka山がそびえ、ガシ川と共に街のシンボル的な存在である。州内における他の大部分の地形は概ね標高350~500mの平地であり、東から北西に向かって緩く傾斜している。このため、カッサラ州を代表する河川であるガシ川とアトバラ川が南東から北西に向かって流れている。ガシ川はエリトリアの高原を水源とし、7月から9月終わりの雨季の間のみ流れ、他の季節は涸れ川となる。アトバラ川はエチオピア高原を水源とし、一年を通じて豊富な水量が流れ、ナイル州のアトバラ市でナイル川本流と合流する。

写真1.Taka山よりカッサラ市内を望む

写真2.アトバラ川(2012年6月)

4-3-2. 地質

カッサラ州の大部分はアフリカ大陸を構成する花崗片麻岩や片岩が分布している。これらの岩石は先カンブリア時代の新原生代(約8億年から6億年前)に起きた汎アフリカ造山運動により変成を受けた。これらは基盤岩と呼ばれ、地下水に乏しい地質になる。カッサラ州南部には、この基盤岩の上に白亜紀のヌビア砂岩、第三紀の玄武岩が分布する。

図2.カッサラ州水理地質図

(出典:Hydorgeological Map of Sudan, Edition 1989 (S=1:2,000,000)
“Water Resources Assessment and Development Program in Sudan”)

図3.カッサラ州地質図

4-3-3. 降水量

カッサラ州に存在する二つの気象観測所(ニューハルファ、カッサラ)の30年分の降水量記録を図4図5に示す。いずれも平均降水量が250㎜前後であり、線形近似からは減少傾向が見られる。このようにカッサラ州の降水量は極めて少なく、エリトリアとエチオピアから流れる河川はカッサラ州にとって非常に重要な水資源である。

図4.カッサラ州ニューハルファにおける年間降水量の変動

(出典:ニューハルファ気象観測所)

図5.カッサラ州カッサラ市における年間降水量の変動

(出典:カッサラ市気象観測所)

4-3-4. 農業と水資源

カッサラ州の産業は農業と畜産に依存している。カッサラ市内のガシ川周辺のサワギ地区では豊富な地下水をくみ上げ、バナナ、グレープフルーツ及びマンゴー等の果樹やトマト、玉葱、キャベツ等の新鮮野菜を栽培している。この地区の農業用井戸はガシ川沿いに無数に掘られており、その数は約1300本と報告されている。この井戸数は30年前と比べて約2倍近くになっている。ただし、そのほとんどは数mから20m程度の手掘り井戸である。2010年のデータによれば、カッサラ市内で汲み上げられる地下水の6割が農業用水として使用されている。しかしながら、年間に涵養される量は限られており、今後人口増に伴う地下水の大量揚水と共に地下水位低下の問題が起きる可能性もある。

ガシ川は雨季になると、大量のシルトを含んだ濁流となり、一気に北北西へ流れる。カッサラ州の北部は洪水灌漑地区と呼ばれ、雨季に氾濫した濁流を農地に導水、灌漑することでソルガム(コーリャン)を栽培している。スーダンではこのような季節的な河川の水を有効に利用するウォーター・ハーベスティングという方法がある。ウォーター・ハーベスティング施設の一つとしてはHoudoやハフィールと呼ばれる施設がある。これらは降雨と河川からの用水を一定の土地に涵養させ、近くに井戸を掘って、できるだけ年間を通じて安定的に水を確保する施設である。洪水灌漑地区はカッサラ市内から北へ90km地点まで広がり、ガシ川はこの地域より以北には流下していない。最北端の集落ではこのような施設を利用し、ガシ川からもたらされる限られた水資源を最大限有効活用する生活をしている。

一方、アトバラ川はカッサラ市から南に約90kmの地点にあるカッサラ州第三の町、ギルバにあるKhasim el Girbaダムで貯水されている。これらの水資源は運河によって、カッサラ州最大の灌漑地帯ニューハルファ地区へ運ばれる。この灌漑地区では主にトマト、綿花及びサトウキビが栽培されている。上水道の水源もこの運河の分岐した水路より取水しているが、排水管理が不十分な為、生活排水および農業排水が混入し、水質汚染の脅威にさらされている。また、アトバラ川は青ナイル川と同様、雨季に大量のシルトや粘土を運搬するために、高濁度となり、それを除去できる浄水場は完備していない。これに対して、この地方では多くの井戸掘削を行ってきたが地下水の塩分濃度が高く、飲料水には不適となっている。
以上述べたように、カッサラ市では農業用水と飲料水は同じ水源で利用しており、近い将来、上水道の質と量を確保する為に行政および水の利用者同士が話し合う必要がある。

4-3-5. 上水道事情

カッサラ州における11ロカリティーの飲料水供給状況は表1に示す通りでる。州都であるカッサラ市の人口は約31万人であり、日給水量も他のロカリティーの都市部に比べて突出している。一方、給水原単位を見ると、主要な河川から遠い岩盤地域に位置するロカリティー(①Hamashkreib, ②Talkonk, ③North Delta, ⑪Wad el Helew)は非常に低い値を示す。

表1. カッサラ州における水使用量
Noロカリティー人口 (2010年)日給水量 (m³/日)給水原単位 (ℓ/人/日)
都市部村落部都市部村落部都市部村落部
合計/平均635,9491,248,13730,72018,1424815
Hamashkreib46,393 222,3403024437 2
Talkouk49,982239,481 1591,2623 5
North Delta 22,40074,291 39021417 3
Rural Kassala42,943119,8298134,2301935
West Kassala3,99179,564118369305
Kassala City314,260023,4320750
Rural Aroma18,87089,3004421,0292312
New Halfa81,926141,1013,0983,8593827
Girba38,80065,3511,8742,1984834
River Atbara0144,12204,042028
Wad el Helew16,38472,758914986 7

4-3-5-1. 水道料金

表2にはカッサラ州における水道料金を示した。カッサラ州は他の州と同様に定額制であり、水道メーターによる料金徴収を実施していない。都市の料金体系は州水公社が州政府の承認を経て、2~3年ごとに物価上昇率に合わせて改訂する。近年、州水公社は改訂の度に10.25%(前回比)の値上げを実施している。カッサラ市内の料金徴収の問題としては、徴収率が60~70%と低いことである。これは支払いを拒否する顧客は州水公社から十分なサービスを受けていない為に、不満を意思表示している可能性もある。一方、2013年より州水公社は徴収率を上げることを目的に電気公社と提携し、水道料金と電気料金を同時に支払う方式を採用した。顧客満足度は徴収率を上げるカギとなっており、今後お互いの対話が必要となる。地方給水の料金体制は従量制と定額制が存在し、単価もコミュニティによって異なる。しかしながら、安価すぎる水料金の設定では、将来のスペアパーツ購入や修理代金が不足する可能性がある。したがって専門家はカッサラ州水公社に対してこれまで廃止していた地方給水部署を2012年に復活させ、モニタリングや職員常駐による各コミュニティへの運営・維持管理の指導を開始した。

表2. カッサラ州における水道料金
内容水道料金値段
A. 都市給水
定額制
 一般家庭1(1インチ給水管)40 SDG
 一般家庭2(3/4インチ給水管)35 SDG
 一般家庭3(1/2インチ給水管)20 SDG
 事業者1(ホテル、ロバの水売り)280 SDG
 事業者2(レストラン)80 SDG
 事業者3(カフェ)45 SDG
 公共機関1(オフィス)80 SDG
 公共機関2(学校)45 SDG
B. 地方給水
従量制定額制
 地方水利用者(※1)0.5~1 SDG
/200ℓ
10~20
世帯/月

4-3-5-2. 都市給水

州水公社により都市給水(各戸給水)が実施されている市はカッサラ、ニューハルファ、ギルバ及びアロマの4都市のみである。

(1) カッサラ市の都市給水

カッサラ市内はガシ川を中心に東岸地区、西岸地区に分けられ、水源とする取水井戸はそれぞれ東岸地区が42本、西岸地区で39本、稼働している(2012年10月時点)。水源は全て、地下水を利用しているため、水質が比較的良好なことからろ過処理はぜずに塩素消毒後、各戸給水をしている。井戸の平均深度は37m、平均揚水量は約30m³/時間であり、1日約20時間稼働している。西岸の一部の井戸はカッサラ市から北へ約50km離れたアロマへ自然流下により送水している。カッサラ市における2009年時点の各戸給水をしている家庭の使用水量は平均で75ℓ/人/日程度であり、その値は地区によって大きく異なる。試験的に水道メーターを設置し実態調査をした結果、200ℓ/人/日以上使用している家庭も存在する。一方で、水源から遠い街の周縁部では水圧が低く、水道管から十分な量の水が得られない地区もある。このような地区では高いお金を払い、ロバの水売りから水を買っている状況である。カッサラ市の人口は近年急速に伸びており、将来、水生産量を上げなければ深刻な水不足が起きる事は明らかだった。このような状況の下、スーダン政府の要請を受け、日本政府はカッサラ市のガシ川東岸における給水施設の改善を目的とする無償資金協力を開始した。

(2) ニューハルファ、ギルバの都市給水

ニューハルファ、ギルバに関してはいずれもアトバラ川を水源とするKhashm el Girbaダムからの運河により水をポンプアップし、前処理(普通沈殿池)、高速凝集沈殿、急速ろ過および塩素消毒により浄水している。しかし、ニューハルファ、ギルバの浄水場では十分に凝集剤が注入されていない。このため、急速ろ過施設で原水の濁度を十分に除去できずに給水する場合があり、今後改善が必要である。

写真3.運河に隣接するギルバ取水ポンプ施設

写真4.ギルバ浄水場の高速凝集沈殿池

4-3-5-3. 地方給水

表3にカッサラ州のロカリティーごとの井戸稼働率を示す。UNICEFによって2009年に各ロカリティーの井戸稼働率が調査された。2012年にはカッサラ州水公社による地方給水施設調査が始まり、④Rural Kassala、⑨Girba及び⑪Wad El Helewに関しては水公社による最新の調査結果を反映している。井戸の稼働率は州全体で69%であり、特に①Hamshkorieb郡、⑤West Kassala郡、⑨Girba郡での稼動率が低くなっている。

表3. 地方給水施設(ウォーターヤード)の概要
No.ロカリティー井戸(ボアホール)
数量稼働中機能停止稼働率
合計1931345969%
Hamshkorieb136738%
Talkuk2013765%
North Delta76186%
Rural Kassala56401671%
West Kassala114736%
Rural Aroma2017374%
New Halfa3127468%
Girba2112957%
River Atbara0000%
Wad El Helew149564%(※1)

出典:Water and Sanitation Strategic Plan for Kassala State, Final Report, Volume1, 2009,M&H Consultancy Services, PWC.を一部修正

(※1)水公社によるパイロット工事実施後の値

図6. ワドエルヘレウでのパイロット工事概略図

2011年5月にカッサラプロジェクトが正式に開始された。給水分野では州内でも井戸の故障率が高かったワドエルヘレウとギルバにおける井戸改修の為のパイロット工事を実施した。具体的には井戸改修に必要な機材調達を供与し、国営水公社の研修センター(PWCT)における井戸管理コースでの研修を通じて職員に対して技術移転を行った。さらに職員達はカッサラ州で施工監理計画の研修を受け、2011年9月にワドエルヘレウ郡の中心地である、ワドエルヘレウでの井戸改修工事を開始した(図6、写真5、写真6参照)。
州水公社は4本の井戸改修を完了し、周辺住民に対して2012年3月から給水を開始した。これらの井戸から汲み上げられる地下水の一部は、今まで給水されなかった郡病院に送られるようになり、保健分野との相乗効果も生まれている。2012年10月には州水公社職員が現地常駐し、現地オペレーターに対して運営・維持管理に関する指導を始めた。このように州水公社は地方給水施設の持続的な維持管理システム確立に向けて動き始めている。

写真5.ボアホールカメラにより井戸内部を調査する水公社職員

写真6.制御盤の点検を実施する水公社職員

4-3-5-4. 難民キャンプにおける給水

カッサラ州第三の都市であるギルバから南に約30km地点の村シャガラブにはエリトリアからの難民を受けいれるためのキャンプが存在する。このキャンプはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所) の支援により、水料金をはじめとし、病院、学校が無料で難民へ提供されている。このため、元々この場所に住んでいたスーダン人との間で不公平感が生じ、キャンプでは無料の水を手に入れるために周辺の村から集まってくる住民もいる。キャンプ内では安定した水量を確保するために、西方約5kmのKhashm el Girbaダムの水をポンプアップし、一旦溜池に貯水されている。水は急速ろ過装置によりろ過されて、キャンプの共同水栓に給水される。急速ろ過器施設は20年以上前に建設され、メンテナンスが必要だが今でも健在である。

写真7.給水用のため池(シャガラブキャンプ)

写真8.難民キャンプの急速ろ過施設

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事