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スーダンの水事情

様々な水関連施設-海水淡水化施設

紅海州の州都であるポートスーダンはハルツームから陸路で9時間を要する遠隔地に位置している。 ただし、空港は整備されており毎日4便のフライトがハルツーム間を運航している他、月曜日のみは唯一の国際線直行であるドバイ便もある。スーダンの17州の内、紅海州のみが約750kmにわたる海岸線を有しており、州都のポートスーダンはこの国最大の貿易港となっている。そのため、ポートスーダンには外国製品が大量に入荷し、この港から鉄道やトラックでスーダン各地に貨物が搬送されている。

一方で、2012年8月に就任した紅海州のMohammed Tahir Elee知事は州都強化の一環としてポートスーダンの美化を積極的に推進している。具体的には公園や街路樹の整備、また、清掃作業の徹底である。このようなポートスーダンの変化に対して、これまで以上にスーダン人及び外国人観光客がこの都市に滞在する機会が増えている。当然なことながら、都市の美化や観光産業の発展には安定した飲料水の供給が不可欠であるものの、紅海州はスーダンで最も水資源が不足している州でもある。特に人口増加の著しいポートスーダンの飲料水供給はこの都市の将来を左右する大きな制約要因となっている。

この問題を解決するためにこれまでスーダン政府は様々なプロジェクトを実施してきたが、小規模ダムからの取水及び限定された帯水層からの取水では増大する飲料水の需要に対応できないことから、海水淡水化施設を積極的に導入してきた。しかしながら、これまで建設されてきた淡水化施設は設計施工上あるいは施設の維持管理上の問題が発生し、淡水の生産は大幅に低下している。

写真1.市街地の緑化

写真2.港周辺の広い歩道

写真3.清潔な市街地の様子

写真4.ポートスーダン空港

写真5.ポートスーダン駅

写真6.ポートスーダン港

2-6-1. ポートスーダンの水需要

紅海州水公社の資料によれば、2012年時点におけるポートスーダンの人口は約57万人であり、水需要は8.8万m³/日となっている(表1参照)。紅海州はスーダン内陸部諸州とは異なり、表流水及び地下水に恵まれておらず急増する水需要の対応に苦慮してきた。 これに対して中国は紅海州の水問題を抜本的に解決するプロジェクトとして、ナイル川本流から465kmものパイプラインを建設する大規模プロジェクトを計画した。この計画ではナイル川から10万m³/日を導水するものであり、しかも紅海州に存在する他の水源よりも大量の水供給が可能となる。しかしながら、このプロジェクトは莫大な資金が必要とされる他、ナイル川の水を利用する場合の水道料金が高額になる他、施設の維持管理費が極めて高いことから現在工事がストップしている。このような中国の長期的な計画とは別に紅海州は海水淡水化が最適な水源と判断し、2004年より海水淡水化プラントを整備してきた。その結果ポートスーダンには現在4基の海水淡水化プラントが完成している(民間施設をのぞく)。ただし、現在稼働中の施設は2基のみであり、しかもこの2基のプラントも様々な問題から設計能力以下で稼働している現状となっている。

表1はポートスーダンにおける将来の水需要の予測を示している。この表からも明らかなように、ポートスーダンの人口は年平均3.8%で増加しており、2017年には約68万人、2022年には約81万人、そして2027年には約96万人と予測されている。この増加する人口に対して、給水原単位(ℓ/人/日)も2007年の100ℓから2027年には140ℓまで増加する見込みとなっている。また、分野別では飲料水の需要増大が顕著であり、この他公園や街路樹などへの散水を目的とした公共用水、その次に工業用水となっている。

諸元 / 年20072012201720222027割合
人口482,316572,840680,354808,047959,707
給水原単位
(ℓ/人/日)
100110120130140
飲料水需要
(m³/日)
48,23263,01281,642105,046132,35971 %
工業用水需要
(m³/日)
7,2359,45212,24615,75720,15411 %
公共用水需要
(m³/日)
12,05815,75320,41126,26233,59018 %
合計(m³/日)67,52588,217114,299147,065186,103100 %

(出典:紅海州水公社)

一方で、ポートスーダンの水源別の水供給量に着目すると設計値と実際との間に大きな乖離が見られる。特にダムや海水淡水化プラントは設計値の半分以下の水供給しか提供できていないことがわかる。 ダムの場合には降水量の変動やダムの堆砂量など自然的な要因が大きく影響している反面、淡水化プラントに関しては維持管理不足による施設や機材の不具合による水生産の大幅な低下をもたらしている。

施設名水供給量 (m³/日)
設計値実際バランス
ダム43,83620,000(23,836)
地下水20,00015,000(5,000)
海水淡水化プラント15,0005,000(10,000)
その他5005000
合計79,33640,500(38,836)

(出典:紅海州水公社)

2-6-2. 既存海水淡水化プラントの現状

ポートスーダンに建設されている海水淡水化プラント4基の位置図は図1に示すとおりである。プラントはAからDと呼ばれており、AとDが市の北部に、BとCが市南部の工業地帯に建設されている。取水施設はAとDが魚市場の先端寄り、また、BとCは市街地南部の遠浅なサンゴ礁の沖合に建設されている。これらのプラントはレバノンのEBD Water社が機材を納入設置し、施設建設はスーダンの施工会社が担当した。全体的に施工精度は低く、また機材設置後にレバノンの会社が運営・維持管理指導を実施しなかったことから、様々な不具合が発生している。特に、1000KVAの大型発電機と商用電源との併用システムに問題があり、プラント内に設置されているコントロールセンターは有名無実となっている。その結果、プラントには商用電源が完備しているにもかかわらず、大型発電機を日常的に使用する等造水コストの上昇の原因となっている。

図1.ポートスーダンにおける海水淡水化プラントの位置 (出典:Google Earth)

(1)プラントA

2004年に完成したこのプラントは5000m³/日の設計となっていた。しかしながら、現在は半分の2500m³/日まで低下している。最大の原因は維持管理システムの不備である。また、製造された淡水は既存の配管に接続されておらず、飲料水はタンクローリーにて配水されている。プラントAはポートスーダン最大の淡水化プラントであるにもかかわらず、今後老朽化とメンテナンス不足により益々造水 量の低下が危惧されている。

写真7.A プラントの全景

写真8.プラント内部

写真9.大型発電機4 基の様子

(2)プラントB・C

このプラントはポートスーダン市南部の工業地帯に建設されている。プラントは2004年に完成したものの現在稼働中止となっていることから、この施設はポートスーダンの飲料水供給に全く貢献していない。ただし、このプラントの取水施設や既存タンク等は再利用が可能であることから、紅海州側はこのプラントの周辺に新規プラントの建設を検討している。

写真10.B・C プラント

写真11.B プラント

写真12.C プラント

(3)プラントD

このDプラントは2011年に完成した最新の淡水化施設である。造水能力は2500m³/日であり、他のプラントと同様レバノンの会社が技術指導なしで機材の納入と設置を行なった。そのため、新設プラントであるにも関わらず従来の施設と同様な問題が発生している。このプラントの大型発電機はコストを削減するためにAプラントから2台を移設しているものの、1台は故障している。最新版のコントロールルームは商用電源の活用ができないために全く使用されていない。また、中古のポンプ等を使用しているために新設プラントであるにもかかわらず錆や漏水が発生している。

写真13. D プラントの全景

写真14.プラント内部

写真15.大型発電機2基

(4)取水施設

紅海は世界的にも有名なサンゴ礁が発達している海域であり、これはポートスーダンでも例外ではない。サンゴ礁は海岸から2 km程度沖合まで分布しているものの、その幅は大小さまざまとなっている。また、ポートスーダンの近海には生活排水や工業排水他様々なごみが大量に流入しており、水質の悪化により市街地近くのサンゴ礁は大幅にその生息数を減らしている。

このような状況下、建設された淡水化プラントの取水施設は2ヶ所であり、市の北部の漁港先端にAとD用の取水施設が、また、市南部の工業地帯にBとC用の取水施設が建設されている。市街地や魚市場に近いAとDの取水施設は老朽化が顕著であり、また、潮風による錆や劣化が進んでいる。設置されているポンプやコントロールパネルは屋外にあり、これも機械の劣化の最大の原因となっている。さらには、取水施設が漁港や貿易港に近いことから原水の汚染も進んでいる。 これに対して、BとCの取水施設は海岸から約600mのサンゴ礁の沖合から取水されておりその水質は良好である。また、関連機械も小屋に保護されており、A/Dプラントの取水施設よりも改修効果が高いと言える。

図2.B/C プラントの取水施設 (出典:Google Earth)

図3. ポートスーダン市内の配管網 (出典: 紅海州水公社、Google Earth)

写真16.A/D プラントの取水施設

写真17.塩害による劣化

写真18.野曝し状態の制御盤

写真19.B/C プラントの取水施設

写真20.建屋は機能している

写真21.サンゴ礁より深部から取水

写真22.大型給水車が数多く待機

写真23.給水車でホテル用水を確保

写真24.ホテル屋上の給水タンク

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