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スーダンの水事情

各州の水事情-青ナイル州

暫定統治三地域の青ナイル州はハルツームから陸路で約8時間を要し、2010年までは日本人専門家の渡航が禁止されていた。そのような中、日本は「ダルフール及び暫定統治三地域人材育成プロジェクト」を通して、給水、保健及び職業訓練分野の協力を遠隔操作で開始した。そして、2010年末に青ナイル州の一部地域において治安の回復が見られたことから、専門家による現地調査が可能となった。専門家は2011年5月23日から29日にかけて青ナイル州を初めて訪問し、そこで各種水分野に関する調査を実施することができた。丁度この時期は青ナイル州が雨季に入ったこともあり、舗装されていない幹線道路の状況は極めて悪く、泥濘化した道路に悪戦苦闘しながらの調査となった。

4-6-1. 青ナイル州の概要

図1. 青ナイル州の位置

青ナイル州はスーダンの南東部に位置しており、東部はエチオピア、北部はセンナール州、そして南部及び西南部は南スーダンのアッパーナイル州に囲まれている。州の面積は約3.9万km²であり、2008年の統計による人口は約83.2万人となっている。ただし、この中には約3万人の「南スーダン出身者」が含まれている。青ナイル州の人口は少ないために、州の人口密度は22人/km²程度となっているが、この州はまとまった降水量があることから、約597万頭の家畜が飼育されている。この数は人口の約7倍に相当する。青ナイル州には①El Rosierise(215,857人)、②El Damazin(212,712人)、③El Tadamon(77,668人)、④Baw(127,251人)、⑤Gesan(87,809人)、⑥El Kurmuk(110,815人)のロカリティーがある。

4-6-2. 自然

4-2-2-1. 降水量

青ナイル州の州都であるダマジンの年間降水量は約600㎜であり、これはハルツームの約3倍となっている。また、雨季の期間が5月から10月までの6ヶ月間続き、この期間中における屋外での業務は大きな制約を受ける。今回の調査では青ナイル州の北部から南部まで移動し、それぞれのウォーターヤードの現状を確認したが、南部は雨季が既に始まっていたこともあり、幹線道路から離れた村落の調査は道路が泥濘化しており困難を極めた。
このように、雨季が6ヶ月間も続き、しかも道路が整備されていない青ナイル州で施工を伴いプロジェクトを実施する場合には雨季の期間を考慮した施工計画書の作成が重要となる。

図2.ダマジンにおける月別降水量の変化(青ナイル州水公社のデータを分析)

青ナイル州の地形は北部に平野部が多く、中部から南部にかけて丘陵状の地形が発達している。また、北部は青ナイル川水系であるものの、南部は白ナイル川水系となっている。丘陵地には大小さまざまな涸れ川(ワディ)が発達しており、これらの川は雨季になれば交通を遮断することになる。また、建設中の道路ではワディの部分がコンクリート構造の橋となることから、州内に存在する多くのワディは道路建設の期間と費用を増大させる原因となっている。
青ナイル州の地質は先カンブリア時代の変成岩や花崗岩が主体であり、地下水開発が極めて困難な地域となっている。このような基盤岩地帯での地下水開発には適切な物理探査が不可欠であるものの、実際の井戸掘削前に物理探査を実施している割合は少ないと報告されている。また、基盤岩の上部には綿花土と呼ばれる、重粘土質土壌が被覆しており、この土壌は雨季になれば泥濘化しやすく、アクセスをより困難にさせている。

写真1.岩盤の露出した青ナイル川

写真2.青ナイル州南部の岩盤地帯

図3.スーダン中央部の水理地質図 (出典:Hydrogeological Map of Sudan,1989)

4-6-3. 青ナイル州の水事情

4-6-3-1. 全体概要

青ナイル州の給水普及率はスーダンでも低く、約41%となっている。また、給水施設の殆どがハンドポンプであり、動力ポンプ付の井戸は必ずしも多くない。表1には青ナイル州に建設されているハンドポンプの内、それぞれのロカリティーにおける稼働状況を示す。州全体で稼働しているハンドポンプの平均は約81%であり、最も稼働している⑥Kurmuk(93.4%)と故障の割合が多い②Damazin(65.4%) との間には28%もの差がある。
一方、青ナイル州の都市給水に着目すると、稼働中のハンドポンプは約82%、ウォーターヤードは83%、各戸給水は78%となっている。ただし、都市給水のデータは①Rosariesと②Damazinの2ロカリティーのみとなっており、他の都市の状況は不明なままとなっている。そのために、今後も継続的な調査が求められている。

表1. 青ナイル州の村落部におけるハンドポンプの稼働状況
No.ロカリティー稼働中故障中
平均
81 %19 %
Rosaries84 %16 %
Damazin65 %35 %
Tadamon72 %28 %
Bau86 %14 %
Geissan86 %14 %
Kurmuk93 %7 %

出典:Development of Plan on Strategic for Water and Sanitation / Blue Nile State, 2009

表2. 青ナイル州の都市部における給水現状
No.ロカリティーハンドポンプ共同水栓各戸給水
稼働中故障中稼働中故障中接続中断水中
合計59 本13 本5 箇所1 箇所8073 戸2231 戸
割合82 %18 %83 %17 %78 %22 %
Rosaries 31 本4 本1 箇所0 箇所1487 戸912 戸
Damazin28 本9 本4 箇所1 箇所6586 戸1319 戸

出典:Development of Plan on Strategic for Water and Sanitation / Blue Nile State, 2009

4-6-3-2. 井戸の特徴

青ナイル州に建設されている井戸の建設本数はスーダンの他の州に比べて少ない。その理由は、この州が比較的表流水に恵まれていたこと及び岩盤地帯での地下水開発が困難であったことによる。ここでは、州水公社より入手した井戸のデータを基にその特徴を説明する。

(1) 井戸深度

青ナイル州の地質はそのほとんどが岩盤地帯であることから、60m以内の井戸が主体となっている。最も頻度の高い深度は30~40mであり、また、80m以上の井戸は1本しか掘削されていない。全体的に青ナイル州の井戸深度は地質条件から判断して、西ダルフールの井戸と類似していると言える。

図4.井戸深度分布図

(2) 自然水位

自然水位とは井戸掘削後に揚水をしていない時の水位であり、この水位が低いと大きな容量のポンプを設置する必要がある。これに対して、青ナイル州の井戸の場合は、殆どの自然水位は40m以下であり、ポンプの容量も必然的に小さくなっている。ただし、岩盤地帯においては自然水位と動水位に大きな差が生じる場合があり、ポンプの選定には注意を要する。つまり、動力ポンプで揚水した場合に、急激に水位が低下する井戸は将来的に枯渇する可能性が高く、このような揚水量の少ない井戸をハンドポンプ用として使用すれば長期的な利用が可能となるであろう。

図5.青ナイル州の井戸の自然水位(m)

(3) 揚水量

スーダンではイギリスの度量衡制度を導入していることから、長さはフィート、容量はガロンで表示する場合が多くある。これらの単位は日本人にはあまりなじみがないことから、今回の調査ではフィートとガロンをそれぞれmとm³またはℓに換算して分析した。
青ナイル州のウォーターヤードに設置されている井戸の揚水量は10~15m³/時が主体となっている。このことは青ナイル州に建設されているタンクの容量が11m³であることから、適切なポンプが設置されていれば1時間以内でタンクを満杯にすることができる能力となっている。

図6.青ナイル州の井戸の揚水量(m³/時)

(4) 井戸建設年

青ナイル州では井戸の建設が本格化したのは2004年以降とされている。それまでこの州では、大規模なハフィールの建設が主体だった。また、UNICEFの水・環境・衛生プロジェクト(WES)では1990年代よりハンドポンプ付の井戸を数多く建設してきたが、動力ポンプ付井戸のウォーターヤードの建設は最近になってからである。井戸の建設年度が新しいことはそれだけ井戸の劣化が進展していないことを示している。

図7.青ナイル州井戸の建設年

4-6-3-3. ウォーターヤードの特徴

今回の調査では青ナイル州で7ヶ所のウォーターヤードを調査した。これらのウォーターヤードの殆どはUNICEFのWESプロジェクトで建設されたものである。現地調査の結果、青ナイル州のウォーターヤードにおける設計施工の課題がより明確となった。

(1) 井戸掘削

これまでWESプロジェクトで掘削されてきた井戸は基本的にハンドポンプが主体であり、ケーシングパイプとスクリーンパイプの口径は4インチとなっている。また、材質はPVCパイプであり、このパイプの強度には問題があることも確認されている。WESプロジェクトでは井戸を掘削する前に十分な物理探査を実施した上で、井戸掘削地点を選定することとされているが実態は不明である。実際の掘削においては物理探査がほとんど実施されておらず、その結果、井戸の成功率は30%と低い状況にある。今後青ナイル州ではハンドポンプからウォーターヤードへのレベル向上が確実であることから、動力ポンプの設置を前提とした、6インチ以上のパイプを設置した確実な井戸建設がより重要である。

(2) 水位測定不可能な井戸

ウォーターヤードの維持管理には井戸の水位測定が極めて重要だ。しかしながら、WESプロジェクトで建設された井戸の多くは、水位測定用の孔が設置されていない。なぜこのような井戸の構造になっているのか不明だが、逆に水位を測定できる井戸には上蓋が設置されていない。そのため、今後は、井戸完成時に必ず観測孔を設置することが望まれる。

写真3.井戸掘削現場の様子

写真4.4インチパイプの挿入

写真5.WES の井戸掘削チーム車両

写真6.エアーコンプレッサー車両

(3) 狭い発電機小屋

WESプロジェクトで建設されている発電機小屋は3m×3mの亜鉛波板製に統一されている。この中には、通常井戸と発電機及びポンプの制御盤が設置されている。しかしながら、このスペースは機材の維持管理をするには狭すぎることから、州水公社は4m×4mの発電機小屋への改修を予定している。また、視察したサイトでは発電機の排気管の設置場所が統一されておらず、室内に排気が充満している発電機小屋も見受けられた。このような問題のある施設は早急に改修する必要がある。

写真7.水位測定の不可能な井戸

写真8.上蓋なしで水位測定可能な井戸

写真9.発電機小屋全景

写真10.発電機小屋内部

(4) 不衛生な共同水栓

今回調査したウォーターヤード7ヶ所の内、全ての共同水栓に課題が見られた。具体的には、井戸の近くに1ヶ所のみの共同水栓が建設されていることから、多くの周辺住民はこの場所で水汲みや洗濯を実施している。このような構造では、汚水が滞留し、井戸を汚染する可能性がある。基本的に、共同水栓は集落の近くに建設すべきものであり、その基礎部分は周辺より高めにし、排水処理を考慮しなければならない。調査した中の1ヶ所で基礎を高めにした共同水栓が見られたが、コンクリート構造ではないために滑りやすく危険な状態になっていた。これらを含め、共同水栓はコンクリートで基礎を固め、排水処理を万全にした施設に改修することが不可欠である。

写真11.汚水が滞留している共同水栓

写真12.周辺よりも高い共同水栓

(5) 集落よりも標高の低い高架タンク

ウォーターヤードの維持管理には井戸の水位測定が極めて重要である。しかしながら、WESプロジェクトで建設された井戸の多くは、水位測定用の孔が設置されていない。このような井戸の構造になっている理由は不明だが、逆に水位を測定できる井戸には上蓋が設置されていない。そのため、今後は、井戸完成時に必ず観測孔を設置することが望まれる。

写真13. 集落よりも低いタンク

図8.ウォーターヤードの改善

(6) 家畜水飲み場

降水量に恵まれている青ナイル州では牛の放牧が一般的である。牛は山羊や羊よりも大量に水を消費し、しかも家畜水飲み場に排泄物を残すことから、水飲み場周辺の環境は非衛生的となっている。また、水飲み場が水源の井戸近くにあることから、汚水による水源の汚染も危惧されている。今後は水源の水質を保護する観点から家畜水飲み場を水源から離すとともに、排水も考慮する必要がある。

写真14. 家畜の水飲み場

写真15. 水源に近い水飲み場

(7) フェンス

既存のウォーターヤードのフェンスは構造上極めて貧弱であり、人や動物が自由に出入りできる状況にある。ウォーターヤードの管理は重要であり、不特定多数の人々が施設内に立ち入ることは維持管理上からも問題である。そのため、今後は人や動物がウォーターヤードに出入りできないように強度の高いフェンスの設置が必要となる。

写真16. 隙間の多いフェンス

写真17. 破損したフェンス

4-6-3-4. 改修、改善、そして拡張

青ナイル州におけるウォーターヤードの最大の課題は、折角建設されたレベル2の施設が点水源方式のハンドポンプと殆ど変らない状況になっていることにある。また、井戸の構造、発電機小屋の設計、タンクの容量と設置位置、共同水栓と家畜水飲み場の適切な配置が実施されていない。これらの問題を解決するためには、ウォーターヤードの単なる現状回復を目的とした改修工事のみでは、その成果は限定される。したがって、対象村落住民のニーズを再度確認した上で、村落に適したウォーターヤードに改善する必要がある。同時に、水運搬距離を短縮させるためには周辺村落まで配管を行い、施設を拡張することが重要である。ただし、施設の拡張に当たっては正確な揚水試験を実施し、井戸の能力を確 認した上で実施することが前提となる。

写真18. 集落から遠い水源

図9. ウォーターヤード改修案

4-6-3-5. 維持管理体制

スーダンの村落部におけるウォーターヤードの維持管理の最大の特徴は、州水公社がすべてに関与していることである。つまり、他のアフリカ諸国で実施されているような「水管理委員会」は設置されておらず、井戸掘削、料金徴収、施設の保守点検、燃料調達に至るまで全て水公社が担当している。このような体制を維持している国はアフリカ諸国の中でも少数と言える。そして、このような現状のシステムでは州水公社にスタッフを数多く抱えることになり、人件費が大きな負担となる。スーダンの現状のシステムには大きな課題が見受けられる。その最大の課題は村落住民が維持管理に直接関与していないことから、施設や機材の故障やトラブルに対応できないことである。また、青ナイル州のように雨季が6ヶ月にわたり、しかもアクセスが不良な地域が急増する。その結果、州水公社はこの期間に活動を停止し、結局村落住民は燃料が入手できないことから、雨季には動力ポンプ付の井戸を使用できなくなっている。一方で、水道料金が州政府の重要な財源となっていることも大きな課題となっている。本来水道料金は施設や機材の運営維持管理のために使用すべきものであるが、実際は税金と同じような取り扱いになっており、徴収された水道料金が本来の目的通り適切に使用できない現状にある。スーダンの村落給水が他のアフリカ諸国と同じようなシステムになるためには様々な課題が解決されなければならない。そのためには、第三国研修等を通して他の国の施設や制度を研修することが一つの解決策となるだろう。

写真19. ロバによる水運搬

写真20. 厳しい水汲み労働

4-6-3-6. Kurmukの水問題

Kurmukへの移動は首都のダマジンから陸路で4時間を要する。しかも、幹線道路が工事中であることから、迂回道路を使用せざるを得ず、雨季には予想以上の時間がかかる。この町の人口は1万人弱であるものの、国際機関や数多くの国際NGOの事務所が設置されている。また、エチオピアと国境を接していることから、国境貿易も行われている。一方で、Kurmukの飲料水供給は深刻な状況になっている。市内には2つのウォーターヤードが建設されているものの、この井戸は当初ハンドポンプ用として建設されたものであり、揚水量は大きくない。そこで、スーダン政府はKurmukの水問題を抜本的に解決するために、現在市内から北東に3km離れたワディにダムを建設している。このダムは高さ8m、堤長800mのアースダムであり、2011年5月末時点でダムの本体工事の70%まで完成し、その後の最新情報では既にダムは完成したとの報告を受けている。このダムの水源は雨季にのみ流れを有するワディであり、ダム湖周辺に綿花土が広く分布していることから、極めて高い濁度の水となっている。そのために、この水を飲料水として利用するには濾過施設が必要となった。州水公社での聞き取りによれば、既に濾過施設と配水タンクの設計は実施されている。このダムはKurmuk市内の標高は50m程度低くなっており、最終的には大型発電機やポンプが必要となる。

写真21. 建設中のダム

写真22. 山の中腹にタンクが建設予定

4-6-3-7. 都市排水

スーダンの殆どの都市では下水や排水の整備が著しく遅れている。これは首都のハルツームにおいても同様であり、州都レベルでは素掘りの排水路が市街地の中心部に建設されている程度であり、常に汚水の滞留やごみが散乱している。青ナイル州の州都であるダマジンは、青ナイル川の左岸に位置しているものの、Roseiresダムが建設されていることから、都市排水機能は極めて悪い状況にある。しかも現在このダムにおいては中国の援助で18mものダムの嵩上げ工事が実施されていることから、この工事が完成すればダムの水位が上昇し、都市排水は更に悪化するものと考えられる。その結果、雨季になれば汚水が市内に滞留し、マラリアなどの蔓延が更に増大することだろう。ただし、エチオピア国境の青ナイル州南部のKurmukは山麓の傾斜地にあり、排水は良好となっている。

写真23. ダマジンの排水路

写真24. 降雨後のダマジン市内の様子

写真25. 嵩上げ工事中のRoseires ダム

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