様々な水関連施設-灌漑施設
1974年にローマで開催された世界食糧会議においてスーダンは「世界のパン籠(World FoodBasket)」として評価された。この表現は必ずしも大げさなものではなく、スーダンの各地には広大な農地が延々と広がっており、国内総生産(GDP)の64%が農業生産物と報告されている。年間降水量の少ないスーダンに広大な農地が分布している最大の理由は青ナイル川、白ナイル川、アトバラ川等から取水された農業用水が毛細血管のように農地を潤していることによる。スーダンの水事情を解説するためには、大量の水を取水しているスーダンの灌漑水路や農業について報告する必要があり、この章ではその概要を報告する。
2-2-1. スーダンの灌漑農地

図1. スーダンの灌漑農地分布図 (出典:UNEP)
スーダンには11地域に約142.8万haもの広大な灌漑農地が広がっている(表1及び図1参照)。現地調査は実施できないものの、紅海州のTokar平野はエリトリア西部を南北に貫流するバラカ川(完全な涸川)によって形成された沖積平野であり、ここでは雨季の洪水灌漑と地下水灌漑で農作物を生産している。この章では現地調査の可能なスーダンを代表する大規模灌漑地域の内、Gezira計画とHalfa AlJadeeda計画及びケナナ砂糖会社の灌漑農地について説明する。
Gezira計画は87.1万ha(1位)、そしてHalfa Al Jadeeda計画は約15.2万ha(2位)もの面積を有する非常に大きな農業地帯である。これらの大規模灌漑地域には青ナイル川とアトバラ川に建設されたダムから農業用水が供給されている。これに対して、ケナナ社のサトウキビ畑向けの灌漑農地面積は4.5万haとスーダンでは5番目の灌漑面積ではあるが、ここには非常に近代的かつ効率的な灌漑システムが整備されている。
No. | 地域名 | 面積 | 対象州 | 主な作物 |
---|---|---|---|---|
1 | Gezira and Managil | 870,750 ha | Sennar, El Gezira | 綿花、小麦、ピーナッツ、ソルガム、園芸、飼料 |
2 | New Halfa | 152,280 ha | Kassala | サトウキビ、ピーナッツ、小麦 |
3 | Rahad | 121,500 ha | Gedaref, El Gezira | 綿花、ピーナッツ、ソルガム、小麦 |
4 | Gashi Delta | 101,250 ha | Kassala | 各種野菜、果樹、小麦 |
5 | Suki | 35,235 ha | Sennar | 綿花、ピーナッツ、ソルガム、小麦、ひまわり |
6 | Tokar Delta | 30,780 ha | Red Sea | 各種野菜、果樹、小麦 |
7 | Guneid Sugar | 15,795 ha | El Gezira | サトウキビ |
8 | Assalaya Suger | 14,175 ha | White Nile | サトウキビ |
9 | Sennar Suger | 12,960 ha | Sennar | サトウキビ |
10 | Khashm El-Girba | 18,225 ha | Kassala | サトウキビ、ピーナッツ、小麦 |
11 | Kenana Suger | 45,000 ha | White Nile | サトウキビ |
合計(Ha) | 1,417,950 |
(出典:UNEP資料を加筆)
2-2-2. Gezira and Managil計画
スーダンが独立する40年程前の1925年に世界最大規模(約87.1万ha)の灌漑農地がセンナール州からエル・ゲジーラ州にかけて開発された。灌漑水路の取水堰は青ナイル川中流のSennarダムに建設されており、このダムから大きな2本の幹線水路が北部に向かって自然流下式で導水されている(写真1、写真2参照)。この計画はイギリスの資本により実施され、当初は綿花栽培を目的として開発されたが、現在は綿花の他に小麦、ソルガム、ピーナッツ、飼料作物(主にアルファルファ)や園芸果樹等数多くの作物が栽培されている。
灌漑水路は全て素掘りであり、日本のようなコンクリートによる三面張りの構造ではなく、また、水路の両側に立ち入り禁止用のフェンスは設置されていない。そのために、人々は自由に水路に立ち入ることができ、この灌漑用水は水路周辺住民の生活用水としても利用されている。ただし、青ナイル川から大量の土砂が灌漑水路に直接流れ込むことから、定期的な浚渫作業が不可欠となる。その結果、灌漑水路の両岸には浚渫された大量の粘土やシルトが積まれている(写真4参照)。素掘りの灌漑水路は極めて自然に優しいために、水路の両岸には様々な水生植物が繁茂し、そこには青ナイル川起源の淡水魚やワニ、両生類等が生息している。特に、大小様々な淡水魚は周辺住民の貴重なタンパク源となっている。
青ナイル川と白ナイル川に挟まれた広大な半島状の灌漑地域の地下には上部帯水層に高濃度の塩水地下水があり、周辺住民は必ずしも満足のゆく飲料水を確保できているわけではない。下部帯水層には豊富な淡水があるものの、井戸の掘削深度が大きくなることから、その開発は順調ではない。その結果、周辺住民は唯一の淡水の水源である灌漑用水を飲料水として利用している。

写真1.ダムと水路の取水堰

写真2.1925 年に完成した取水堰

写真3.灌漑水路の分岐点と農地

写真4.浚渫された土砂
2-2-3. New Halfa計画
この灌漑プロジェクトの背景としては、エジプトのAswan Highダムが建設されたことにより、エジプトとの国境地帯に開けた歴史的な町であるワディ・ハルファの多くが水没する事態となった。そのために、1959年エジプトとスーダンとの間でナイル川の水利用に関する合意書が締結され、スーダン側ではカッサラ州のKashm Al Geziraダムから取水し、下流域の広大な地域に灌漑農地と移転してきた住民向けの町を建設することになった。これが、New Halfa計画である。灌漑面積は約15.2万haもあり、これはスーダンでは2番目に大きな灌漑面積となっている。
新しく建設された町はニューハルファと命名された。しかしながら、この町の水源は濁度の高い灌漑用水を使用している。その理由はこの灌漑地域の地下には良好な帯水層が発達しておらず、地下水の開発が困難なことによる。また、開発された井戸水の水質に問題があり、井戸水は塩分濃度が高くなる傾向にある。粘土やシルトを大量に含んだ灌漑用水は農業用水あるいは家畜用水としての問題はない。しかしながら、この地域の住民はニューハルファの浄水場の処理能力が小さいことから、雨季には濁度の高い灌漑用水を利用せざるを得ない。そして、浄水場の沈澱池の周りには排出された粘土がうず高く積まれている。

写真5.地平線まで続く灌漑水路

写真6.浄水場の周りには排出された
粘土が処理されず放置されている
2-2-4. ケナナ砂糖会社の灌漑農地
ケナナ砂糖会社は1975年に設立され、5年後の1981年より本格的な操業を開始した。この会社の工場設立には日本の海外経済協力基金(OECF)による有償資金協力も貢献している。本社工場は白ナイル州の州都であるラバクの南に建設されているが、建設当時はハルツームからラバクまでの道路が十分整備されていなかったことから、敷地内に滑走路が建設され、ハルツームから直接飛行機で多くのビジネスマンや工事関係者が出張してきたそうである。
ケナナ砂糖会社が白ナイル川の右岸地域に開設された背景としては、白ナイル川の豊富な水とサトウキビ栽培に適した土壌が分布していたことにある。特に、サトウキビ畑の灌漑や砂糖製造に必要な水については、白ナイル川の右岸に建設された取水堰から46mのポンプ揚水された白ナイル川の水を使用している。これはダムを建設して灌漑している青ナイル川流域とは大きく異なる。導水された用水は、等高線に沿った水路網でサトウキビ畑を潤し、その水路の総延長は400kmになる。この会社は、大規模なサトウキビ畑の栽培や収穫に対して、極めて近代化された機械化システムを導入している。また、この会社は世界最大規模の砂糖の生産量を誇っている他、現在はブラジルの技術協力でサトウキビから純度の高いバイオエタノールも生産し、ヨーロッパに輸出している。一方で、この会社は病院、学校、研修センター、スーパーや動物園までも運営しており、会社の広大な敷地内に足を踏み入れれば、ここがスーダンであることを忘れてしまう程である。特に、ゲストハウスはスーダンでは最も清潔で充実した施設となっている。

写真7.サトウキビ畑への灌漑の様子

写真8.砂糖工場の外観

写真9.白ナイル川の取水堰

写真10.Kenana 社のサトウキビ畑

写真11.快適なゲストハウスの内部

写真12.充実した研修センター
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