各州の水事情-ダルフール地方(3)
ダルフール地方(3) においては、日本の協力で実施されている井戸改修のパイロット事業の内容とダルフール地域で活動している国際機関やNGOに関する情報を提供する。
4-10-1. 井戸改修の成果
4-10-1-1. 井戸改修事業の背景
2008年6月に水供給人材育成プロジェクトがスーダンに対する援助再開最初の案件として開始されたことにより、プロジェクトでは様々な州レベルにおける飲料水関連データの入手と分析を実施してきた。その結果、ダルフール地方に関しては全体の38%に相当するポンプ付井戸に不具合があることが判明した(表1参照)。これらは聞き取り調査とアンケートを主体として実施しており、専門家が現地を訪問できない当時の状況下では唯一の情報入手の手段であった。
井戸状況 | 西ダルフール州 | 北ダルフール州 | 南ダルフール州 | 合計 | 割合 |
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合計 | 88 | 232 | 550 | 870 | 100% |
稼働中の井戸本数 | 70 | 195 | 275 | 540 | 62% |
稼働しない井戸本数 | 18 | 37 | 66 | 121 | 14% |
廃棄された井戸本数 | 0 | 0 | 209 | 209 | 24% |
そこで、2009年6月にダルフール人材育成プロジェクトが正式に開始されたことにより、給水分野ではダルフール3州に数多く存在する不具合の生じている井戸を改修するためのパイロット事業が実施されることとなった。具体的には井戸改修に必要な機材調達と国営水公社の研修センター(PWCT) における井戸管理コース及び施工管理コースでの研修である。これらの研修を同じ研修生に最大3回受講させ徹底的な技術移転が進められた。そして、井戸改修に必要な全ての機材が2010年9月にダルフール3州に引き渡され、これによってパイロット事業が本格的に開始されることになった。
ダルフール3州における井戸改修はエアーリフティング工法によって実施している。通常、日本で実施されている井戸改修の方法には、上記以外にベイリング、ブラッシング、ジェッチング、化学処理、落下物の撤去のためのフィッシング等が井戸の状況に応じて実施される。しかしながら、ダルフール3州に関しては、基礎となる井戸データ(井戸構造図) を予め入手できなかったことから、エアーリフティング工法のみを導入した。
ただし、井戸改修効果を確認するために、井戸カメラを調達するとともに、最終的な井戸能力の変化を数量的に把握する必要があるために、揚水試験を改修前後で実施している。同時に井戸カメラで確認された情報(井戸深度、スクリーンの位置、ケーシングの不具合箇所等) をベースに井戸構造図を再構築し、将来的な井戸管理に必要なデータを作成している。
4-10-1-2. 井戸改修の効果
ダルフール3州においては2010年10月からパイロット事業が開始され、2013年5月末時点で、北ダルフール州が14本、西ダルフール州が16本、そして南ダルフール州が19本の井戸改修を完了している(表2参照)。

(1) 動水位

図1.動水位の回復( 北ダルフール州)
動水位はポンプを稼働した時の水位を示しており、井戸からの揚水はこの動水位を安定させた状況で実施しなければならない。改修前後の動水位を分析した結果、36本の井戸全てにおいて、動水位が浅くなった(図1参照)。動水位が浅くなったことは井戸の揚水量が増大したことを意味している。
(2) 水位降下

図2.水位降下の回復( 北ダルフール州)
水位降下とは、動水位とポンプを稼働していない状態の静水位との差であり、井戸の能力が低い井戸の場合には水位降下量が増大する。逆に、井戸の能力が高い場合には、水位降下は小さくなる。例えば、カッサラのガシ川の沖積層に建設された井戸の中には極めて良好な帯水層に恵まれた井戸があり、このような井戸の場合にはポンプで長時間揚水しても井戸の水位は安定している。ダルフール3州の井戸の水位降下を分析した結果、改修前後で水位降下は縮小している(図2参照)。 このことからも、井戸の改修効果が確認された。
(3) 揚水量

図3.揚水量の増大(北ダルフール州)
井戸の能力は揚水量で判断され、この能力を判断するためには揚水試験を実施しなければならない。揚水試験には予備揚水試験、段階揚水試験、連続揚水試験及びその後の回復試験の4段階があり、ダルフールのパイロット事業ではこれらの試験を井戸改修前と改修後に実施することを義務付けている。図3には井戸の揚水試験結果を示した。この図からも明らかなように、井戸改修後全ての井戸の揚水量は大幅に改善した。
(4) 比湧出量

図4.比湧出量の増大( 北ダルフール州)
比湧出量とは井戸を1m低下させた場合の揚水量を示すものであり、揚水量を水位降下で除した値である。つまり、この値が大きければ井戸の能力が高いと言える。そこで、図4に着目すると、改修後に比湧出量が2倍から4倍に増大していることが明らかとなり、井戸改修効果がダルフール3州においては確実に出ている。
(5) 井戸柱状図の復元

図5.復元された井戸柱状図と改修結果
スーダンの多くの州では井戸掘削時のデータが散在あるいは紛失しており、このことが井戸の維持管理の大きな支障となっている。この問題を解決するためには、井戸カメラのデータや揚水試験結果で再現する作業が必要となる。図5には北ダルフール州で再現された井戸柱状図を示している。この図には井戸深度、口径、スクリーンの位置、改修前後の静水位、動水位、揚水量が記載されている。このような基本的な井戸柱状図が再現されれば、今後の井戸管理に大きく貢献することになり、井戸改修工事の重要な成果と言える。
(6) 現場写真
現在スーダンには日本製の井戸カメラ7台が納入されている。このカメラによって、井戸内部の様子が撮影可能となった。例えば、写真1と2は井戸改修前後のスクリーンの様子を撮影したものである。改修前のスクリーンは殆どスケールや鉄さびが付着しており、この状態では井戸の揚水量は著しく低下する。しかしながら、改修工事後、スクリーンの目詰まりがなくなり、スクリーンの隙間が回復した。このような健全なスクリーンになった井戸は当然のことながら、動水位や揚水量が回復した。

写真1.改修前のスクリーンの状況

写真2.改修後のスクリーンの様子

写真3.揚水試験の様子

写真4.井戸カメラによる診断

写真5.エアーリフティングの様子

写真6.浚渫された井戸内部の沈殿物
4-10-2. ダルフールの給水分野で活動している国際機関及びNGO
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No | 機関名 | 分類 | 北ダルフール | 西ダルフール | 南ダルフール | 活動内容 |
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1 | UNICEF | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | WESとWASHプロジェクトへの資金協力 |
2 | UNOPS | 国際機関 | ○ | Zalingeとダルフールの3州都における管網整備 |
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3 | UNEP | 国際機関 | ○ | ○ | ・Zalingeにおける47Kmの管網整備 ・地下水モニタリング |
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4 | OCHA | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | ダルフール地方へのデータベース及び地図化 |
5 | WHO | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | 保険衛生プロジェクト |
6 | UNAMID | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | 国連関連施設への給水施設建設 |
7 | WFP | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | 国内避難民への食糧支援 |
8 | 世界銀行 | 国際機関 | ○ | 平和構築の一環としての給水計画(未実施) |
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9 | AfDP | 国際機関 | ○ | ○ | ○ | 2012年5月より水分野の協力を開始予定 |
10 | Islamic Bank | 国際機関 | ○ | 35本の井戸とウォーターヤードの建設 |
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11 | JICA | 日本政府 | ○ | ○ | ○ | 給水(井戸改修)、保健、職訓の人材育成プロジェクト |
12 | Chinese Aid | 中国政府 | ○ | 10本の井戸建設 |
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13 | スーダン連邦復興基金 | スーダン政府 | ○ | ・8ウォーターヤードの建設(2007年より) ・エル・ジェネイナの149Kmの管網整備 |
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14 | ダム建設公社 | スーダン政府 | ○ | 3基のハフィールを完成(2011年より) |
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15 | Goal Sudan | 国際NGO | ○ | WESとWASHプロジェクトに参画(アイルランドのNGO) |
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16 | Plan Sudan | 国際NGO | ○ | 給水と衛生施設及び学校建設 |
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17 | ICRC | 国際NGO | ○ | 給水へのアクセス強化プロジェクトの実施 |
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18 | Oxfam America | 国際NGO | ○ | 給水、トイレ、衛生施設建設及び既存施設の改修 |
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19 | SRC | 国際NGO | ○ | 国内避難民に対する緊急給水計画 |
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20 | DDA | 国際NGO | ○ | 給水と衛生施設プロジェクト |
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21 | El Sugya Charity Organization | 国際NGO | ○ | WASHプロジェクトの支援 |
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22 | KSCS | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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23 | Coopi | 国際NGO | ○ | 給水プロジェクト(イタリアの国際NGO) |
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24 | ARC | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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25 | NCA | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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26 | WVI | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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27 | TEARFUND | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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28 | ZOA | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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29 | CIS | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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30 | SRC | 国際NGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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31 | SOGIA | スーダンNGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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32 | RDN | スーダンNGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
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33 | Sanad | スーダンNGO | ○ | 給水と衛生プロジェクトの実施 |
スーダンの人道支援委員会のデータによれば、ダルフール地方ではこれまで118の国際機関、政府機関、国際NGO等が活動していることになっている。これらの各機関の内、現地での聞き取り調査をベースに給水及び衛生分野に限定すると33機関となる(表3参照) 。ただし、これらの各種機関の内、水分野への貢献度が最も高いのはUNICEFであり、UNICEFはWES及びWASHプロジェクトを通して、飲料水供給、衛生改善、給水分野の人材育成及び様々な関連機材の供与を実施してきた。そして、ダルフール地域では UNICEFの資金を活用した多くの国際NGOが給水と衛生分野のプロジェクトを実施している。
一方で、2国間の援助としては日本と中国がプロジェクトを実施しているものの、中国の支援は10本の井戸建設であり、規模は小さくなっている。このことは中国が他のスーダン各州で実施している、ダム建設、大規模導水施設、新規浄水場、数多くの井戸掘削及び機材供与を考慮すれば、極めて小規模で異質な協力と言える。
これに対して、日本の支援はダルフール3州の既存井戸50本を改修し、それに必要な機材の供与と研修を実施するものであり、ダルフール3州の日本の援助に対する期待は非常に高くなっている。また、ダルフール側は既に井戸改修の重要性を理解していることから、パイロット事業終了後も独自に井戸改修工事を継続実施する意向を有している。
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