各州の水事情-白ナイル州

図1. 白ナイル州の位置
2012年11月から実施されている「スーダン国水供給人材育成プロジェクト・フェーズ2」では、スーダンの水供給に関わる人材の育成を首都ハルツームから州レベルへと展開するのが目標である。スーダンには現在17の州があるが、その中から2州をパイロット州として選定し、活動を実施している。スーダンの南部に位置する白ナイル州は、北部より時計回りに、ハルツーム州、ゲジラ州、センナール州、南コルドファン州、北コルドファン州と州境を接している。また南部の一部では南スーダンとも国境を接している(図1参照)。
州の総面積は約4.1万km²で、総人口173万人(2008年統計)となっている。州内には①Algitaina、②Omrimta、③Aldowaim、④Raback、⑤Aljabalain、⑥Kosti、⑦Tawdalt、⑧Assalamの8つのロカリティー(2011年11月時点)がある。白ナイル州はその名が示すとおり国際河川である白ナイル川が南から北に、州を2分するように流れている。この州が周辺の州と比較して緑が多いのは白ナイル川の賜物と言える。主要都市であるコスティ市には白ナイル川沿いにスーダン最大の河川港が建設されており、南スーダンの首都ジュバと繋がる重要な物流の拠点となっている。また、コスティ市と州都のラバック市周辺には、世界最大級のケナナ砂糖会社が広大なサトウキビ畑を所有しており、ここでは灌漑用水路が網の目のように広がっている。白ナイル州の砂糖の生産はスーダンで最大規模を誇る。このように、白ナイル州はスーダンにおいて非常に重要な地域となっている。
4-5-1. 地形

写真1.白ナイル川
ナイル州は、スーダンの多くの地域と同様に比高差の少ない非常に平坦な地形を有する。図3に示されるように、標高400m程度の平地が州内に広がっている。はるか南方のビクトリア湖付近に流れを発する白ナイル川(図2.中央付近参照)は、400㎞以上に渡り白ナイル州内を流れているが、州内の比高差は10mにも満たない。目立った山地・丘陵等は形成されていないが、白ナイル川から青ナイル川に向かって緩やかに標高が増している。

図2.白ナイル州の地形(出典:SRTM 標高数値データより作成)

図3. 白ナイル州の断面図(出典:SRTM 標高数値データより作成)
4-5-2. 地質
白ナイル州の地質は、先カンブリア時代からカンブリア紀の複合基盤岩類、その上位に中生代白亜紀のヌビア砂岩、第四紀の粘土や砂礫、白ナイル川に運搬された河床堆積物によって構成されている。最も広範囲に分布するのが比較的地下水に富んでいる河床堆積物および粘土、砂礫層である。地下水に最も乏しい複合基盤岩類は州の北西部に一部認められるものの、地下水開発の困難により村落の数が他の地域より少ない傾向がある。また、最も地下水が豊富で地層の厚さがが100mから500mと報告されるヌビア砂岩層が州の最北部に分布している。

図4. 白ナイル州の水理地質図
(出典:Hydorgeological Map of Sudan, Edition 1989 (S=1:2,000,000)
“Water Resources Assessment and Development Program in Sudan”)

図5.白ナイル州の地質図
4-5-3. 降水量と気温
1909年から1989年に記録されたコスティ市の月別の平均降水量と平均気温は図6に示す通りである。年間平均降水量の391mmは、ハルツーム市の約2倍であるが、雨季に降水が集中しているために飲料水供給は白ナイル川に依存している。降水のほとんどは7月から9月に集中しており、乾季である10月から4月には、ほとんど雨は記録されていない。専門家が白ナイル州のコスティ市に滞在していた11月から12月の乾季には、雨はもちろんのこと雲を見ることも稀であった。一方で気温は、スーダンの他州と同様に4月から5月に最も高くなり一日の平均気温が30度を超える。その後雨期に入ると気温は一端降下するのだが、雨期が明ける10月に向かって再び上昇し、いわゆる “セカンドサマー” を迎える。

図6. 白ナイル州コスティ市の平均降水量と気温(出典:The Global Historical Climatology Network)
4-5-4. 白ナイル州の水事情
(1) 州全体

図7.白ナイル州の一日当たりの給水量(出典:Water, Sanitation and Hygiene Sector Strategic Plan,2011-2016)
2010年に発行された州水衛生計画(2011-2016) によると白ナイル州の安全な水へのアクセスは、全体で約61%(都市部約84%、地方約50%) とスーダンの州の中では平均的な数値となっている。給水施設の中で最も多く設置されているのが、ハンドポンプでありその給水量は全体の約3%程度にすぎない。また、ハンドポンプの寿命は短く、安定した給水施設とは言えない。次に多いのは、井戸を水源とするウォーターヤードであり、全体の約41%の給水量となっている。つまり、白ナイル州の水源の44%が地下水であることがわかる。残りの56%は白ナイル川を主な給水源とした浄水場と緩速濾過施設による給水となる。
No. | ロカリティー | ウォーターヤード | ハンドポンプ | 浄水場 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
稼働 | 不稼働 | 合計 | 稼働率 | 稼働 | 不稼働 | 合計 | 稼働率 | |||
合計 | 238 | 77 | 315 | 76% | 409 | 109 | 518 | 79% | 10 | |
① | Al Gitaina | 87 | 39 | 126 | 69% | 280 | 52 | 332 | 84% | 0 |
② | Omrimta | 27 | 10 | 37 | 73% | 15 | 15 | 30 | 50% | 0 |
③ | Al Dowaim | 47 | 10 | 57 | 82% | 80 | 17 | 97 | 82% | 1 |
④ | Raback | 1 | 1 | 2 | 50% | 0 | 0 | 0 | – | 3 |
⑤ | Al Jabalain | 0 | 1 | 1 | – | 0 | 0 | 0 | – | 5 |
⑥ | Kosti | 6 | 1 | 7 | 86% | 20 | 13 | 33 | 61% | 1 |
⑦ | Tandalti | 68 | 15 | 83 | 82% | 10 | 10 | 20 | 50% | 0 |
⑧ | Assalam | 2 | 0 | 2 | 100% | 4 | 2 | 6 | 67% | 0 |
(2) 都市給水

写真2.浄水場の処理水
白ナイル州の都市部では、主に白ナイル川を水源とした7つの浄水場による給水が行なわれている。特に代表的な都市であるラバック市とコスティ市には大規模な浄水場が完備されており各戸給水が実施されている。しかしながら浄水場による水処理は十分ではなく、水道から供給されている飲料水の濁度は高く水質管理は必ずしも良好とは言えない。これは、州水公社によると水道料金が安価であるため凝集剤や滅菌用の塩素等の薬品が十分に使用できないためとされているが、施設の維持・管理が適切に実施されていないことも大きな原因となっている。その結果、都市給水地域では水道管からの漏水が多く認められ、断水や給水不足の大きな要因となっている。これらの給水施設の維持・管理能力を向上させるために、日本政府は白ナイル州水公社に対して人材育成のための技術協力プロジェクトを実施している。
給水人口 | 給水施設 | 総給水量 (m3日) | 漏水・家畜による消費 (m3/日) |
実際の給水量 (m3/日) | 一人当たりの水消費量 (ℓ/日) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ウォーターヤード | 給水量 (m3/日) | 緩速濾過 施設 | 給水量 (m3/日) | 浄水場 | 給水量 (m3/日) | |||||
976,000 | 22 | 5,765 | 1 | 576 | 7 | 35,932 | 42,273 | 17,923 | 24,350 | 25 |
出典 : Water, Sanitation and Hygiene (WASH) Sector Strategic Plan 2011-2016
※2008年人口と年間増加率(約2.5%)により2010年の人口を算出
(3) 地方給水

写真3.白ナイル州のウォーターヤード
白ナイル州の地方部での給水は、都市部とは異なり地下水を主な水源としている。その割合は80%以上と高く、中でもウォーターヤードによる給水がそのほとんどを占めている(表3参照)。「白ナイル州水・衛生計画(2011-2016)」によると、2010年における同州地方部の1人当たりの1日の水消費量は約20ℓ」と報告されているが、給水事情が悪いAssalamロカリティーでは僅か3ℓであり、地域による格差が問題となっている。このような給水率の低い地域では、水不足を補うためにハフィールと呼ばれる適切な処理がされていない溜め池の水を飲料水として利用しており、衛生面の問題が懸念されている。これに対し、州水公社は2016年までに「500m以内の給水施設から1人当たり37ℓ/日の給水」を目標として掲げ、給水施設の整備および新設を進めている。
給水人口 | 給水施設 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ハンド ポンプ | 給水量 (m³/日) |
ウォーター ヤード | 給水量 (m³/日) |
緩速濾過 施設 | 給水量 (m³/日) | 浄水場 | 給水量 (m³/日) | |
1,064,000 | 375 | 2,350 | 216 | 25,500 | 9 | 3,240 | 3 | 1,500 |
出典 : Water, Sanitation and Hygiene (WASH) Sector Strategic Plan 2011-2016
※2008年人口と年間増加率(約2.5%)により2010年の人口を算出
(4) 水道料金

写真4.川から直接給水する住民
白ナイル州水公社の報告によると同州の水道料金システムは、コスティ市やラバック市といった都市部では各建物に接続されたパイプ口径と事業規模を基準とした定額制が、地方部ではドラム缶やジェリカン毎に課金される従量制が主流である(表4 参照) 。これに対して白ナイル州の都市部では主に浄水場よる各戸給水が主流である。しかしながら各家庭の水道水の濁度は高く、これは浄水場で適切な水処理ができていない事を示している。これに対して州水公社では、水道料金が安価であるため維持・管理に関わる費用が充分に捻出できないと訴えている。具体的には、濁度を下げるための凝集剤の購入費用や濾過施設の定期的なメンテナンス費用の不足である。
一方で、地方給水においても同様の問題が発生しており、水料金収入不足に起因する給水施設のスペアパーツ購入費用や整備費用の捻出が困難であるとの報告を受けている。さらに水道料金を支払う事の出来ない住民の中には、白ナイル川やハフィールより直接水を汲み飲料水として利用する現状も報告されている。州水公社ではこれらの対応として、適切な水道料金の見直しと、給水事情の改善から顧客の満足を得ることにより水道料金徴収率の改善へと繋げ、水道事業運営の向上を試みている。
No. | 内容 | 水道料金 |
---|---|---|
A 都市給水 | 定額制(毎月) | |
1 | 一般家庭 1 (1 インチ給水管) | 45 SDG |
2 | 一般家庭 2 (3/4 インチ給水管) | 35 SDG |
3 | 一般家庭 3 (1/2 インチ給水管) | 25 SDG |
4 | 事業者1 (公立学校、診療所、薬局) | 50 SDG |
5 | 事業者2 (レストラン) | 100 SDG |
6 | 事業者3 (競技場、喫茶店) | 200 SDG |
7 | 事業者4 (公園、洗車場) | 250 SDG |
8 | 事業者5 (私立学校、大規模レストラン、ホテル) | 300 SDG |
9 | 事業者6 (ガソリンスタンド、大規模ホテル) | 500 SDG |
10 | 他政府関連施設 | 75 – 20,000 SDG |
B 地方給水 | 従量制 | |
1 | ジェリカン(約20ℓ) | 0.10 – 0.15 SDG |
2 | ドラム缶(約200ℓ) | 1.00 – 1.50 SDG |
出典:白ナイル州水公社
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