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モロッコ水物語

自然シリーズ‐洪水の功罪

洪水の功罪

2006年5月25日から27日にかけて、アトラス山脈東部のエルラシーディア地方では記録的な集中豪雨が乾季に発生し、9名の死者を含め家屋崩壊など各地に洪水災害をもたらした。特に、砂丘観光の中心都市であるMerzougaでは過去20年間の平均降水量が57mmしかないにもかかわらず、その2倍近い112mmの集中豪雨が2日間で発生し、今回の洪水で最大の被害を出している。

具体的には、134戸の家屋が倒壊した他、道路の寸断、水道管の破損、4基ある全てのKhettaraの冠水及び突然出現した湖やその他の湿地により、蚊や害虫の大量発生が確認された。一般的にモロッコの乾燥地域では民家の建築材料として粘土とワラを混ぜた日干し煉瓦を使用することが多く、今回倒壊した家屋の殆どは、激流の衝撃ではなく、ゆったりとした布流により、日干し煉瓦の家屋が溶け出したものである。

写真-13.Merzougaに突然発生した湖(左)と洪水で倒壊した家屋

図-6.過去20年間と今回の降水量の比較

各種自然災害の中でも、今回モロッコで発生したような洪水災害に関しては客観的に評価することが重要であり、死傷者や家屋の倒壊といたマイナス面だけに視点を向けることは正当な評価とは言えないであろう。例えば、エジプトのナイル川はアスワンハイダムができるまで毎年定期的な洪水を繰り返し、そのことによってナイルデルタが優良農地として長年エジプトの農業生産に大きく貢献してきた。このことは乾燥地域における洪水がマイナス面だけではなく、逆にプラスの面が大きいことを示してもいる。

  モロッコの乾燥地帯では絶対的な雨量が少ない為に、大きな災害をもたらす洪水でさえ貴重な農業用水と考えられている。そして、これまでモロッコの灌漑関連機関は大小さまざまな洪水取水堰を建設しており、そこで確保された泥水が当該地域の貴重な農業用水となってオアシスに導水されている。洪水で河川から直接あるいは人為的な水路で導水される泥水には様々な栄養分が含まれている。そして、これらの泥水がオアシスの中に流入すれば、土壌改良が進み、その結果、連作障害などを軽減することも十分期待できる。同時に、オアシス内に泥水が長時間滞留することから、地下水への涵養も進展する。これらのことによって、オアシスは農地として活性化し、最終的には農業生産が高まる。

 最後に、日本がマラケシュ近郊のOurika川で実施した開発調査案件の洪水予警報システムについて報告する。このシステムはOurika川で大規模な洪水災害が発生したことから、日本の協力でモロッコに初めて導入されたシステムであった。当然のことながら、洪水が発生しなければこのシステムが住民に認知されることはないが、2006年の5月と8月の洪水に対しては豪雨直後に警報が出され、それによって被害を最低限度に抑えることに成功したのである。勿論、この事実はモロッコで高く評価され、新聞に大きく報道された。

 このように、自然災害等を対象とした協力では短期に成果が出ることは少なく、その検証にはある程度の時間がかかることを評価する側も十分認識する必要がある。

写真-14.洪水取水堰とオアシスに導水された洪水灌漑用水

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